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インドのメディカルツーリズム、2020年に市場規模は80億ドル。得をするのは誰?

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nndoCII-Grant Thorntonの調査によると、インドのメディカルツーリズムの市場規模は、2020年までに80億ドルまで成長する。この数字は、現在の30億円の2倍以上となる。

 

メディカルツーリズムとは?

”メディカルツーリズム”という言葉は、旅行代理店によって作られた造語で、安価で、通常、特化した医療を受けるために海外へ行く人のことを指している。※定義は様々あり、安価を目的としないケースもある。
医療自体の費用も然ることながら、安価な航空費や滞在費、ビサの申請や規制が緩いなどの諸条件も顧客の動機となっている。

 

なぜ、インドがメディカルツーリズムのハブとなれるのか。

インドの競合国は、中国、マレーシア、シンガポール、タイである。
インドは、その中で、タイを除いて最も多くの顧客を獲得している。The CII-Grant Thorntonは、調査の中
で、その理由を以下のように述べている。

・インドは、他国と比べて3次医療の費用が安い(3次医療には、癌治療や神経学、整形を含む)
・心臓バイパス手術は、インドでは1万ドルかかるが、アメリカでは13万ドル、シンガポールは1万8500ドル、
タイは1万1000ドルかかる。
・同様に、血管形成術は、インドでは1万1000ドルであるが、アメリカでは5万7000ドル、タイとシンガポールでは1万3000ドルかかる。膝置換は、インドでは8500ドルに対し、アメリカでは4万ドル、シンガポールだと1万3000ドル、タイは1万ドル。
・他国とは違い、インドは外国人の患者に対して長期滞在可能な特別な医療VISAを発行している。
・上記の医療VISAについて、インドは取得プロセスを簡素化している。”The 42A special visa”は、患者と  その家族が、治療が長期化し、許可された日数を越えた場合、必要な日数を認めてもらうことができる。

 

誰が、インドにメディカルツーリズム目的で来るのか。

・Assocham Indiaによると、2001年にメディカルツーリズム目的で訪印した外国人は85万人である。なお、今年は32万人と推定されている。
・バングラディッシュは、上記の訪印外国人の多くを占める。これは、バングラディッシュの医療水準が低いことや、インドが地理的に近いことが要因である。
・2012年にKPMG and FICCIによって実施された調査によると、メディカルツーリズム目的の訪印外国人の内訳は以下のとおり。バングラディッシュ22%、モルディブ17%、アフガニスタン9%、イラク8%、ナイジェリア6%。
・また、上記訪印外国人の内、ウクライナやアルメニア、ロシア、グルジアで30%を占める。他にも、サウジアラビアやクウェート、UAE、タンザニア、ケニア、モーリシャス、ガンビア、スリランカなども多数を占める。
・上記訪印外国人の治療目的は、膝関節・股関節置換、骨髄移植、バイパス手術、乳房のしこり除去、白内
障手術、整形手術である。

 

インドが、メディカルツーリズムを促進するために何を行ったか。

・NDA(国民民主同盟)は、現代医学とアールユーヴェーダを融合するために、メディカルツーリズム連盟を創設することを約束した。
・インド政府は、National Accreditation Board for Hospitals and Healthcare Providers(医療機関等品質評価機関)を設置。これにより、医療の品質についての患者の不安を取り除くことが期待される。
・多くの私立病院は、外国人患者に向けてインターネットで告知・宣伝をしている。
・インドの環境省は、ウェブサイトにてメディカルツーリズムの受け入れ先となる病院のリストを公開している。なお、ほとんどは私立病院となり、公立病院はごく一部に限られる。マハーラーシュトラ州やケララ州、アーンドラ・プラデーシュ州の観光課も同様のリストを作成している。
・マハーラーシュトラ州は、メディカルツーリズム協議会も設置している。
・CII(インド工業連盟)は、the Indian Health Care Federation(インドヘルスケア連盟)と共同で
“先進国の医療を、途上国並みの価格で”というブランド戦略を以って、顧客獲得を図っている。

 

最近の課題

・インドは、商業目的の代理母出産を禁止した。しかし、代理母の市場は1億3800万ドルあり、インドの
メディカルツーリズム産業の大きな部分を占める。インドにおける、代理母出産の費用は、アメリカのおよそ3分の1である。

 

メディカルツーリズムはインドに恩恵をもたらすのか。

ジャワハルラール・ネルー大学のthe Centre of Social Medicine and Community Health(社会医学と地域保健センター)のSunita Reddy医師は、「メディカルツーリズムは、医療サービスを高所得者と貧困層で完全に分離することを正当化している」と述べる。

実際、the National Health Policy(国民健康政策)は、2002年に改訂され、都市部の医療機関は貨幣  獲得のためのサービス業の一種と位置付けられ、高い治療費を請求することを認めている。

Reddy医師は、「メディカルツーリズムは、補助金を公立病院から私立病院にシフトし、公立病院が極めて
少額の補助金しか貰えないことを正当化している。このようなシフトは、公共医療基金から官民
連携プロジェクトへ移行したり、安い土地を私立病院に提供することで、行われている」と述べる。

NDAは、昨年の総選挙で勝利した際に、”国民全員を健康に”という公約を掲げた。
しかし、多くの人は、National Health Assurance Missionと呼ばれる公約(無料診断・治療、無料の薬、重度の病気に対する保険を全国民へ提供する)は、経済的理由から果たされないだろうと考えている。

インドの健康省は、国民保険のスキーム(今後5年で185億ドルの拠出)を2015年4月に発表する予定で  あった。しかし、3月にこの計画の廃止が発表された。一部の報道では、健康省が計画のやり直しを命じられたのではないかとされている。

NDAは、医療・ヘルスケア関連の予算縮小を図っている。今年は、予算として33,150ルピーが配分されたが、これはUPA(統一進歩同盟)が政権を担っていた昨年の31,300ルピーと比べて明らかに少ない額である。そして、残念ながら、現政府は現在の方針を変える気配はない。

(参考)Medical tourism will earn India $8 billion by 2020. But who benefits?

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